内臓に障害が生じた場合、障害されている臓器を覆う皮膚に痛みを感じる場合と、その臓器から遠く離れた皮膚に痛みが感じられる場合があります。
この後者の臓器から遠く離れた皮膚に痛みが現れる現象を関連痛(放散痛)と呼びます。
心臓の疾患では、左前胸部から左上腕と前腕の内側、手の小指側に痛みが放散し、腎臓の疾患では、腰が痛んだり、胃の疾患では背中が痛んだりします(図2参照)
。
又、関連痛は内臓からだけではなく、筋肉(トリガーポイント)や関節からも生じます。
股関節周りの筋肉の異常により下肢に痛みが放散し、又は仙腸関節(図4参照)の障害でも下肢や鼠径部に痛みが放散します。
関連痛は、内臓と皮膚からの入力が共通の痛覚伝導路(脊髄視床路)に接続(収束)する事により起こります(図1参照)。
脳は、内臓からの痛みの入力を誤って解釈し、皮膚からの痛みとしてとらえてしまいます。
皮膚は体表にあり、外界からの刺激を多く受け、体を守るための最大の感覚器官として機能しています。
その為、脳では皮膚の痛みの局在性が発達し、脳は痛い場所をはっきりと感じ取る事が出来ます。
逆に、内臓は皮膚と異なり、外界からの刺激を受ける事が少なく、その為、脳では内臓の痛みの局在性が未発達で、内臓の痛みは、部位が不明瞭で漠然とした鈍痛として感じられます。
脳は日頃、皮膚からの入力を多く受けている為、内臓からの痛覚伝導路への入力を脳は、皮膚からの痛みとして誤ってとらえてしまいます。
内臓と皮膚からの入力が共通の痛覚伝導路に収束して接続すると、内臓からの侵害刺激(痛みを起こす刺激)の入力により、皮膚からの入力が増幅される(神経の興奮性を高める)という説です。
図2には、おおよその内臓からの痛みの分布範囲を示しています。
図3には、おおよその頸椎椎間関節からの痛みの分布範囲を示しています。
痛みは障害のある椎間関節と同側に現れます。
*図の〇は椎間関節の位置を示しています。
C=頸椎
図4Aには、腰椎椎間関節のおおよその痛みの分布範囲を示しています。
腰椎椎間関節からの痛みは、椎間関節部の腰痛として現れます。
上部腰椎椎間関節(L1-2)からの関連痛は、下腹部から鼠径部あたりに現れます。
下部腰椎椎間関節(L4-5、L5-S1)からの痛みは、殿部、鼠径部から大腿部あたり、時にふくらはぎの後部にまで及ぶ事もあるようです。
腰椎椎間関節症は、L4-5とL5-S1でよく起こります。
*L=腰椎、S=仙椎
図4Bには、仙腸関節からのおおよその痛みの分布範囲と出現率を示しています。
仙腸関節からの痛みは、仙腸関節の外側部(図4Bの●)に95%以上の確率で現れる事が最大の特徴です。
仙腸関節からの疼痛は正中(まんなか)に現れる事は殆どなく、大腿外側部、大腿後部、鼠径部、下腿部などに現れるようですが、痛みの範囲は連続せず、分節的に現れる事が特徴のようです。
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