筋肉と背骨について


筋肉は骨と骨をつなぎ関節を動かしています。

 

*例外として、顔の筋肉などは骨と皮膚をつないで表情を作っています。

 

「筋肉の種類」


筋肉は大きく分けると、赤い筋肉(赤筋・遅筋・タイプⅠ)と白い筋肉(白筋・速筋・タイプⅡ)と呼ばれる2種類に分類されます。

 

*赤筋は酸素を使って効率よくエネルギーを作る為、ヘモグロビン(血液の中で酸素を運搬する赤い色素たんぱく質)に似たミオグロビンと、ミトコンドリアの中のチトクロームという鉄を含む色素たんぱく質が沢山含まれています。

 

赤筋は、この色素たんぱく質のために赤く見えます。

白筋は酸素を使わないでエネルギーを作るため、ミオグロビンやミトコンドリアが少なく、白く見えます。

 

又、赤い筋肉と白い筋肉の中間のピンクの筋肉も存在します。

 

赤筋は、収縮速度は遅いが疲労しにくい。
白筋は、収縮速度は速いが疲労しやすい。

 

赤筋は、運動単位が小さい為、大きな力は出ませんが、細かく繊細な動きが出来ます(顔の筋肉の90%は赤筋の為、繊細で細かい表情が作れます)。

 

白筋は、運動単位が大きい為、瞬間に大きな力は出せますが、細かい動きは出来ません。

運動単位・神経支配比
運動単位

*図1上の例えでは、運動単位が小さいと12本の筋線維を収縮させるのに3つの神経細胞が共同して働く事が出来ます。

 

収縮速度の遅い赤筋線維が協調して収縮する為、細かい調節が出来ます。

 

*図1下の例えのように運動単位が大きいと、1つの神経細胞が興奮した時、12本の筋線維が同時に収縮します。

収縮速度の速い白筋線維が、同時に収縮する為、瞬間的に大きな力が出ます。

 

しかし、単純な収縮しか出来ません。 

 

*運動単位の小さい神経細胞は、弱い刺激でも敏感に反応し興奮します。刺激が大きくなると次々に大きな運動単位が動員され、大きな力が出せるようになります。

この事をサイズの原理と言います。

 

また、1つの運動単位に、1つの筋紡錘(センサー)が用意されていると言う考えがあります。

 

上の図で例えると、小さい運動単位では12本の筋線維に3つの筋紡錘が存在します。

 

大きな運動単位では12本の筋線維に1つの筋紡錘しか存在しない事になり、小さい運動単位と比べると、筋肉の感度が落ちる事になります。

  

人の筋肉では、細かい動きをする手や目の筋肉の運動単位は小さく、数本~数十本の筋線維から出来ています。

 

大まかな動きをする背中やお尻の筋肉は運動単位が大きく、数百本~数千本の筋線維から出来ています。

 

 白筋の割合は、表層の筋ほど多い傾向があります。

赤筋の割合は、深層の筋ほど多い傾向があります。

 

又、1つの筋肉の中でも、深層に行くほど赤筋の割合が多くなっているようです。

 

白筋は鍛えると太くなり、筋肉モリモリになります。

赤筋は鍛えてもあまり太くなりません。

 

赤筋を赤身のマグロに(持久力に優れ、1日中泳ぎ回る回遊魚)、白筋は白身のヒラメ(普段は海底でじっとしているが、捕食時や外敵から逃れる時に素速く動く)の筋肉によく例えられます。

 

人の筋肉はマグロやヒラメと異なり、1つの筋肉の中に、赤筋と白筋の線維が混じり合っています。

 

「筋肉と背骨」


インナーマッスル
インナーマッスル

腹横筋、横隔膜、骨盤底筋、多裂筋などは体の深層にあり、赤筋の割合が多くなっています(図2参照)。

 

深層の筋肉は、表層の筋肉が収縮を起こす前に、内耳や小脳などの平衡感覚器官と無意識のうちに連携し、先行して収縮し、背骨を安定させています。

 

*手や足を動かす時も、 無意識のうちに深層の筋肉は収縮を起こし、手や足の動きに先行して、体幹を安定させます。

回旋筋・横突間筋・起立筋
ローカルマッスルと脊柱起立筋

最も深層で短く小さい、赤筋の多い筋肉は、回旋筋や横突間筋などです(図3参照)。

 

最深層の筋肉は1つ1つの骨をつないでいます。

 

最深層の筋肉の中にはセンサー(筋紡錘)が多く存在します。

 

又、筋肉が小さいほど筋紡錘が多いと言われています。

 

オーチスのキネシオロジー(書籍)には、回旋筋には多裂筋の約4.5~7.3倍の筋紡錘が存在すると書かれています。

 

*多裂筋も、筋紡錘の多い深層の筋肉(インナーマッスル)として知られています。

 

小さく短い筋肉なので、わずかな力しか出せませんが、1つ1つの背骨の位置をセンサー(筋紡錘)により感知し、中枢神経(脳と脊髄)へ伝える役目をしています。

 

筋紡錘からの情報により、最深層の筋肉は、持続的に1つ1つの背骨の位置変化を鋭く感じ取り、繊細に姿勢を調節していると考えられます。

アウターマッスル
アウターマッスル

僧帽筋、広背筋、脊柱起立筋、大殿筋などは体の表層にあり、白筋の割合が多く、複数の関節をまたぐ長い筋肉です(大殿筋は股関節しかまたぎませんが、胸腰筋膜により広背筋とつながっています)。

 

又、広背筋、僧帽筋は上肢と体幹をつなぎ、大殿筋は下肢と体幹をつないでいます(図4参照)。

 

これら表層の筋肉は、とても大きな力を出す事が出来ます。

 

日常の動作で最深層の筋肉は、動きの中で、状況の変化に応じて、しなやかに姿勢を調節し安定させています(動的安定性)。

 

この時、表層の筋肉は、最深層の筋肉からの位置情報をもとに、深層の筋肉と協調して働き、動きに力とキレを与えています。

又、重量挙げのように重い物を持ち上げる時は、体全体の筋肉が共同して 同時に収縮し、背骨を圧縮・固定し安定させます(静的安定性)。

 

重い物を持ち上げる時(大きな力を出す時)は、背骨の動きよりも、強さ(硬さ)が要求されます。

 

この時も、深層の筋肉が先行して収縮し、先に背骨を安定させる必要があります。

脊椎の動的安定性
脊柱の安定性

もしも、最深層の筋肉による1つ1つの背骨の安定性が不十分な状態で、表層の筋肉が収縮し、力が背骨に加わると、簡単に正常な状態から逸脱(ズレる)します(図5・Å)。

 

又、最深層の筋肉の働きが悪くなると、動的安定性が失われます。

 

すると背骨は、重い物を持たなくても、 静的安定性を確保する為に、表層の筋肉を収縮させて背骨を固めようとします(図5・C)。

 

若年者に比べると高齢者の方が、常に体全体の筋肉の緊張が強いと言われています。

 

高齢になると動的安定性が十分に保てなくなる為、多くの筋肉が活動すると考えられます。

 

柔軟でしなやかな背骨の安定性を維持する為には、最深層の筋肉(赤筋)が非常に重要なようです。

 

「背骨のズレと筋肉」


ぎっくり腰などで傷めた時に起こる背骨の固定は、この最深層の筋肉の反射性収縮によるものだと考えられます。

 

最深層の筋肉の緊張が緩むと背骨の固定は改善されるでしょう。

 

背骨にズレが残ると、ズレた骨をつないでいる最深層の筋肉は伸ばされたままか、短縮したままになります。

 

この状態ではセンサー(筋紡錘)の働きが不十分になると考えられます。

この為、表層の筋肉も緊張状態となり、背骨の状態が段々と悪くなる可能性もあります。

 

背骨を正常な方向へ動かし矯正する必要があります。

 

「筋肉トレーニング」


ムキムキの肉体になる為には、表層の白筋を鍛える必要があります。

 

最大筋力の70~80%(8~10回持ち上げられる重さ)以上の負荷で鍛えると効率が良いと言われています。

 

又、加圧トレーニングは、筋肉に圧力を加えて血流をある程度遮断し、酸素でエネルギーを作る赤筋の働きを抑えます。

 

赤筋が働かない為、弱い負荷でも、白筋が働くようになるようです。

 

スロートレーニングも、筋肉をゆっくり持続的に収縮させる事により、筋肉自体で血流を遮断して、白筋を鍛えるようです。

 

赤筋の割合は、マラソン選手など持久力を必要とする選手に多い為、有酸素的な運動で赤筋のトレーニングが行われています。

 

背骨の動的安定性の為には、最深層の赤い筋肉を鍛える必要があります。

表層の赤い筋肉を増やす事が目的ではありません。

 

最深層の筋肉は腕の筋肉のように力こぶを作ったり、胸の筋肉のようにピクピクと意識して動かす事が出来ません。

 

自分の意識では動かせない不随意筋と言えるでしょう。

 

*一般的には内臓の筋肉を不随意筋、体を動かす筋肉を随意筋と言います。

 

重要なのは、最深層の筋肉の筋紡錘です。

 

筋肉を鍛えると言うよりは、センサーを鍛えると言う方が適切かもしれません。

 

最深層のセンサーを鍛えて、深層の筋肉と表層の筋肉の連携を良くする事が目的です。

 

最深層の筋肉の中にある姿勢を維持するセンサーは平衡感覚を司るセンサーと密接に連携しています。

 

平衡感覚を鍛えるトレーニングは最深層の筋肉トレーニングにつながります。

 

又、ダンスなどのように手や足、体の表面の力(肩の力)を抜いて、華麗にしなやかに踊るのも良いでしょう。

 

それと、投球、アーチェリー、射撃、ゴルフ、サッカーのリフッティングのように正確性を要求されるスポーツも良いでしょう。

自分の手や足を正確に動かす為に、体幹の深層の筋肉は活発に働いています。

 

日常生活の中のトレーニングとしては、歩く時は、なるべく音を立てずに柔らかく静かに華麗に歩くようにします(ドスドスと歩かない)。

 

物を扱う時も、優しく静かに優雅に扱うようにするのも良いでしょう。

 

柔らかく動く為には、表層の筋肉を緩める必要があります。

 

*インナーマッスルとは体の深層の筋肉を意味し、アウターマッスルは体の表層の筋肉を意味します。

どこまでが表層でどこまでが深層かの定義は曖昧です。

 

ローカルマッスルは深層にあり、背骨どうしを細かくつなぐ筋肉です(電車に例えると各駅停車のような存在です)。

 

グローバルマッスルは表層にあり、背骨を全体的にまたぐ筋肉です(電車に例えると特急電車のような存在です)。