筋皮神経の絞扼性神経障害


筋皮神経障害は稀に起こります。

 

筋皮神経が障害されると、肘を曲げる力と(上腕筋と上腕二頭筋の麻痺)、前腕の回外(上腕二頭筋による手の平を上に向ける運動)に障害(筋力低下)が現れます。

 

*上腕筋の外側深部は橈骨神経も支配し、上腕筋は完全には麻痺しません。

又、肘の屈曲は腕橈骨筋や円回内筋等の前腕の筋群により補われ、回外は回外筋等の前腕の筋群により補われ、ある程度の筋力は残ります。 

筋皮神経・外側上腕日神経・烏口腕筋

感覚障害は、外側前腕皮神経の障害により、前腕外側に痛みしびれが現れます(図1参照)。

 

筋皮神経は第5から第7頚神経から起こり、腋窩(わきの下)に走り、腕神経叢の外側神経束から分岐し、烏口腕筋に筋枝を出した後、烏口腕筋を貫通します(図1参照)。

 

次いで上腕二頭筋と上腕筋の間を両筋に筋枝を与えながら外側へ向かい、上腕二頭筋腱の外側に出て外側上腕皮神経となり、前腕外側の皮膚に感覚枝(皮枝)を出して終わります(図1参照)。

 

筋皮神経は、烏口腕筋貫通部で烏口腕筋の過緊張により絞扼(締め付けられる)される事があります。

 

*筋皮神経は上腕二頭筋腱外側で外側上腕皮神経が筋膜を貫通して皮下に出る部分でも比較的固定され、上肢の運動や筋膜の緊張により絞扼される事があります。

この場合、前腕外側の感覚障害のみで筋力低下は起こりません。

 

烏口腕筋貫通部で絞扼されると上腕二頭筋、上腕筋、前腕外側皮神経が障害され上記の症状が現れます。

 

外傷による筋皮神経の損傷は、上腕部では上腕二頭筋に覆われるため稀ですが、前腕部では筋皮神経から分岐した外側上腕皮神経が皮下に位置する為、外傷により損傷する事があります。

  

「筋肉からの関連痛」

烏口腕筋に関連する痛み(関連痛)は主として肩前面と上腕後側に現れます。

又、前腕後側と手背から中指の先まで痛みが現れる事もありますが、肘や手首には痛みが起こりません(TPによる体幹上部と上肢の痛み・2、図2参照)。

 

上腕二頭筋の関連痛は肩前面に現れます。又、肩甲骨上部や肘前面に広がる事もあります(TPによる体幹上部と上肢の痛み・2、図3参照)。

 

上腕筋の関連痛は親指の付け根に現れます。又、肘前面や肩前面に広がる事もあります(TPによる体幹上部と上肢の痛み・2、図4参照)。

 

その他、三角筋や小胸筋などの肩周辺の協力して働く筋や拮抗して働く筋からの関連痛も現れる事もあります。

 

「原因」

烏口腕筋は、腕を前方に上げたり(屈曲)、体側に引き寄せたり(内転)する筋肉です。

又、腕を外側に挙上(外転)する時にも、上腕骨を肩関節の方に引き寄せ、肩関節を安定させる働きもあります。

 

烏口腕筋の過緊張は、両手を前に出して重い物を持ち運ぶ、投球やテニスのサーブ、ベンチプレス等の筋トレ、手を高く上げての長時間作業等によって起こると考えられます。

 

*烏口腕筋のみの過緊張は起こり難く、肩周辺の協力して働く筋や拮抗して働く筋の過緊張を伴う事が多いです。

  

「検査」

手背を背中につけて背中をこするように内転させると烏口腕筋の収縮により症状が増悪します。

 

筋皮神経と烏口腕筋は肩関節外転・伸展・外旋させると伸張され症状が増悪します。

 

*烏口腕筋は、肩関節外転・伸展・内旋でも伸張されます。

 

烏口腕筋に圧痛があり、神経の烏口腕筋貫通部の圧迫により症状が増悪します。

 

これらの症状があれば烏口腕筋による筋皮神経の絞扼の可能性が考えられます。

 

上腕二頭筋腱の外側部に圧痛と症状の憎悪があれば外側上腕皮神経の絞扼の可能性があります。

 

「治療」

筋皮神経は第5~第7頚神経で構成され、背骨・骨盤のバランスを整える事によりこれらの神経の働きを正常に戻します。

 

鍼による全体の経絡の調節も行います(特に肺の経絡)。

 

局所的治療では、烏口腕筋と三角筋前部線維や小・大胸筋等の肩周辺の協力して働く筋や三角筋後部線維や上腕三頭筋等の拮抗して働く筋の反応点に鍼治療や徒手による治療をして緊張を緩めます。