腕の付け根に「四辺形間隙(クワドリラテラルスペース)、外側腋窩隙」と呼ばれる隙間があり、この隙間を腋窩神経と後上腕回旋動脈が通過しています(図2)。
この四辺形間隙は、上方は小円筋、下方は大円筋、内方は上腕三頭筋長頭、外方は上腕骨によって構成されています(図2)。
これらの筋は、投球、バレーボールのアタックやテニスのサーブ、懸垂、杖を突く、上肢の内旋外旋を繰り返す動作等で過緊張を起こす可能性があります。
診断は四辺形間隙部の圧迫による圧痛や症状の増悪、肩関節水平外転・外旋位の持続による症状の増悪等があればこの疾患が疑われます。
又、頸椎疾患や五十肩等との鑑別も必要です。
肩甲上神経の絞扼部位は下記の2カ所です(図2参照)。
①肩甲切痕部と上肩甲横靭帯の間の通過部(肩甲切痕症候群)
上肩甲横靭帯が骨化して骨性の管(肩甲上孔)を形成する事もあります。
②肩甲棘基部(棘下切痕)と下肩甲横靭帯の間の通過部(棘下切痕症候群)
肩甲上神経は、この2カ所で急に方向を変える為、牽引(引っ張られる)、摩擦、絞扼により障害を受けやすい(図1参照)。
肩甲上神経は棘上筋、棘下筋、肩関節と肩鎖関節に分布します。
肩甲切痕症候群では棘上筋、棘下筋両方の麻痺が現れ、棘下切痕症候群では棘下筋の麻痺のみ現れます。
棘上筋と棘下筋は小円筋、肩甲下筋と共に回旋筋腱板を構成し、肩の運動時の安定性に寄与する為(動的安定筋)、これらの筋の麻痺により肩の運動に障害が生じます。
特に棘上筋は上肢挙上開始時に三角筋と共同して働き(フォースカップル)、肩関節の動きを安定させます。
棘上筋の麻痺では上肢挙上初期の力が低下します。
*腱板損傷と症状が類似する為、鑑別が必要です。
又、棘下筋は肩関節の最も効率的で強力な外旋筋である為、棘下筋の麻痺により肩関節の外旋筋力も低下します。
棘下筋は表層に位置する為、この筋に委縮が起こると視診や触診により容易に確認できます。
棘上筋は僧帽筋に覆われる為、やや確認が困難です。
絞扼部である肩甲切痕部、棘下切痕部には圧痛が生じます。
*棘上筋に関連した痛み(関連痛)は、肩の深部に現れ、時に痛みが肘の外側に放散する事がある。
棘下筋の関連痛は肩前部の深部に現れ、上腕前外側から前腕前外側に放散される。稀に痛みが肩甲骨内側縁に放散する事もある。
肩甲上神経は、肩甲骨の下制、下方回旋や外転により伸長されます。
猫背の人の肩甲骨はこの状態で固定され易い。
広背筋、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋の緊張は、肩甲骨を下制させ、胸椎後彎を増大(猫背)させる傾向があります。
上腕を内転させて胸の前で交差させる動作で、肩甲上神経の緊張が高まり障害を起こしやすい。
肩甲上神経は、投球、バレーボールのアタック、テニスのサーブ等の繰り返しの動作により、伸張と弛緩を繰り返し、肩甲切痕部や棘下切痕部で摩擦や牽引にさらされ障害される事があります。
その他、神経走行部での骨棘、ガングリオン(できもの)、外傷で障害される事もあります。
絞扼性神経障害は画像では診断出来なませんが、骨棘やガングリオンにはレントゲン、MRI、超音波検査等の画像診断が必要です。
必要に応じて電気生理学的検査が行われます。
上腕三頭筋長頭:関連痛は、上腕の後側から肩の後部に現れる。又、首の付け根や前腕後側にも現れる事がある(TPによる体幹上部と上肢の痛み・2、図5参照)。
大円筋:関連痛は、肩後部から上腕後側に現れる。稀に前腕後側にも放散する事がある(TPによる体幹上部と上肢の痛み・1、図7参照)。
小円筋:関連痛は、肩後部の深部に明瞭な痛みが現れる(TPによる体幹上部と上肢の痛み・1、図6参照)。
広背筋:関連痛は、肩甲骨下部から背部中部に放散される。痛みは肩後部に広がり、上肢内側、小指と薬指にも放散する(TPによる体幹上部と上肢の痛み・1、図8参照)。
三角筋:関連痛は三角筋部に現れる(TPによる体幹上部と上肢の痛み・2、図1参照)。
肩甲上神経は、第(4)、5、6頚神経、腋窩神経は、第5、6、(7)頚神経で構成されています。
頸椎に異常があれば、これらの神経に影響を与えます。
まず、骨盤背骨の状態を整え頸椎の状態を良くします。
骨盤の後傾は胸椎後彎を増強させます。
全体の経絡の調整も行います。
「四辺形間隙症候群の局所的治療」
肩甲骨や肩関節の調整、大円筋、広背筋、小円筋、上腕三頭筋長頭とこれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行います。
「肩甲上神経障害の局所的治療」
肩甲骨や肩関節の調整、広背筋、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋(肩甲上神経を牽引する筋肉)とこれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行います。
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