正中神経は手の平の橈側(親指側)の皮膚の感覚と親指から薬指の橈側1/2までの手のひら側の皮膚の感覚を支配しています(図2参照)。
又、前腕を回内(親指を内側に回す、図8参照)、手首の屈曲、親指、人さし指、中指の屈曲、親指の対立運動(図3参照)を支配しています。
正中神経が障害を受けると、上記の場所にシビレや痛みなどの感覚障害や、上記の運動に障害が起こります。
親指、人さし指、中指の指先の感覚や、親指の対立と人さし指と中指の屈曲が障害される為、指先による摘み動作などの繊細な作業が出来なくなり,手の運動機能が著しく障害されます。
これらの運動や感覚の障害の現れ方は、神経の障害される部位により異なります。
正中神経が損傷され易い部位は手関節部と肘関節遠位部で、手関節部で生じる手根管症候群は、全ての絞扼性神経障害の内で最も多い疾患です。
*絞扼性神経障害とは、脊髄を出て、手足などの末梢に伸びる神経が、骨や靭帯、筋肉(筋膜)で作られた隙間を通る時に締め付けられて起こる神経の障害です。
肘関節遠位部での絞扼性神経障害では、円回内筋症候群と前骨間神経麻痺が生じます。
正中神経は、円回内筋の上腕頭と尺骨頭の二頭間を通過し、浅指屈筋の腱膜アーチの下に入って行く(図1参照)。
円回内筋症候群は、正中神経が円回内筋の二頭間で絞扼(締め付けられる)されて障害される。
又、浅指屈筋の腱膜アーチ部や上腕二頭筋腱膜の肥厚により絞扼され障害を受ける事もある(図1参照)。
この症候群は、直接の打撲、重量物の運搬や、手や前腕の繰り返し動作、特に前腕の回内運動の反復によって発症するケースが多い。
正中神経は円回内筋を通過すると直ぐに前骨間神経を分岐する。
分岐後、前骨間神経は浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋の間を下行する。
前骨間神経は、浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋により絞扼され損傷される事もある。
その他、前骨間神経麻痺は、直接の外傷(打撲や骨折など)によって発症する事もあるが、原因が明らかでないものが多い。
円回内筋症候群では、手根管症候群の症状である、親指から薬指の橈側●の痛みやシビレに加えて、手の平の橈側●にも痛みやシビレが現れます(図2参照)。
*手の平の感覚神経である掌枝は手根管の手前で分岐し手根管を通らない為、手根管症候群では手の平に感覚障害が起こらない(図1、図4参照)。
円回内筋症候群の運動障害としては、親指の付け根の筋肉(母指球筋)の麻痺が起こり、下記の 手根管症候群と同様の症状が現れます。
・対立運動(親指の外転と内旋を伴う屈曲、図3参照)障害
・母指球筋の麻痺の為、親指は外旋かつ内転し、母指球部が猿の手のように平らになる(猿手変形、図3参照)
・麻痺が長く続くと母指球部の筋肉がやせる(図3参照)などの症状が現れます。
円回内筋症候群では、上記の症状に加えて、円回内筋から手根管の間で分岐する神経(前骨間神経と感覚神経の掌枝)も障害され、下記の症状が現れます(図4参照)。
・親指(ⅠP関節)を曲げる筋肉(長母指屈筋)が障害され、親指が曲げられなくなる。
・人さし指と中指(DIP関節)を曲げる筋肉(深指屈筋の橈側部)と、人さし指から小指(PIP関節)を曲げる筋肉(浅指屈筋)が障害され、人さし指と中指が曲げられなくなり、薬指と小指を曲げる力も弱くなる。
*中指(DIP関節)を曲げる筋肉(深指屈筋)は尺骨神経に支配される事もある。
・前腕を回内(親指を内側に回す)する筋肉(方形回内筋)が障害されるが、円回内筋が障害されない為、回内筋力はあまり低下しない。
*方形回内筋の麻痺を確認するには、肘関節を最大屈曲して円回内筋の働きを抑え、前腕の回内が可能かテストする(左右差を見る)。
顆上突起は稀に見られる骨性の突起で、ストルザース靭帯と呼ばれる線維性の帯が付着する(図5参照)。
これらと上腕骨との間に生じるトンネル内を正中神経と上腕動脈が通過する。
その結果、肘関節や前腕の運動により、正中神経と上腕動脈が圧迫される事がある。
上記の様な、肘関節より近位の障害では、円回内筋より近位の正中神経から筋枝を受ける、円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋も麻痺する(図4参照)。
その結果、円回内筋症候群の症状に加え下記の症状が現れます。
・前腕回内運動が不能となり、前腕は回外位に固定される(円回内筋、方形回内筋の両方が麻痺し、前腕の回外作用のある、橈骨神経支配の回外筋と筋皮神経支配の上腕二頭筋の作用が残る為)
・手首の屈曲力が弱まり、手は尺側(小指側)に屈曲した状態に固定される(手首を橈側に屈曲させる橈側手根屈筋は麻痺するが、手首を尺側に屈曲させる、尺骨神経支配の尺側手根屈筋と深指屈筋尺側の筋力は正常に保たれる為、図4参照)
「祈祷師の手」
円回内筋症候群と、円回内筋より近位の正中神経障害では、親指、人さし指、中指の屈筋の麻痺の為、患者が手を握ろうとすると、小指と薬指だけが屈曲する(図6参照)。
前骨間神経麻痺では、親指(IP関節)を曲げる筋肉(長母指屈筋)、人さし指と中指(DIP関節)を曲げる筋肉(深指屈筋の橈側部)、前腕を回内する筋肉(方形回内筋)が障害される(図4参照)。
前骨間神経は感覚神経を含まないので、運動麻痺のみで、シビレや痛みは現れない。
前骨間神経麻痺では、親指と人さし指でOKサインを作らせると、親指のIP関節と人さし指のDIP関節が屈曲不能な為、過伸展となり、涙のしずくの様な形になります(図7参照)。
手根管症候群では、母指球筋の麻痺の為、対立運動が不能となり、きれいな丸が作れなくなるが、親指のIP関節と人さし指のDIP関節は屈曲出来る(図7参照)。
前骨間神経麻痺では母指球筋の麻痺も萎縮(筋肉が痩せる)も起こらず、親指の対立運動は可能です。
円回内筋症候群では、指の屈曲も親指の対立運動も不能となります。
前骨間神経と尺骨神経との間に、約15%の頻度で交通枝が出現する事がある(マーティン・グルバー吻合、図4参照)。
この吻合がある時は、前骨間神経の障害により、尺骨神経支配筋に筋力低下をきたす事がある。
又、尺骨神経が肘部で障害されても、尺骨神経支配の手内筋に麻痺が生じないか、麻痺の程度が軽い場合もある。
「円回内筋による障害」
肘90度屈曲、しっかり握り拳を作り、前腕を回内させ抵抗を加えると疼痛が誘発される(図8参照)。
「上腕二頭筋腱膜による障害」
肘90度屈曲、前腕回外位で、肘屈曲と前腕回外させて抵抗を加えると疼痛が誘発される(図8参照)。
「浅指屈筋の腱膜アーチによる障害」
人さし指、薬指、小指を伸展位に保持し(深指屈筋機能の抑制の為)、中指を屈曲させて抵抗を加えると疼痛が誘発される(図8参照)。
その他、円回内筋症候群では、手根管症候群に似た症状が現れるが、手根管症候群のような疼痛の夜間憎悪は稀である。
絞扼部位での圧痛やティネル徴候(絞扼部をハンマーで叩くと正中神経に沿って痛みが放散する)が現れる(図9参照)。
又、手根管症候群で陽性になるファレンテストは陰性(手関節を屈曲又は伸展位に保持しても症状が増悪しない)である(図9参照)。
上記の症状に加え、絞扼を起こしている筋肉からの関連痛が現れる事もある。
円回内筋:前腕から手首の掌・橈側(手の平側かつ親指側)の深部に痛みが放散する(TPによる肘、前腕、手の痛み図11参照)。
浅指屈筋と深指屈筋:過緊張を起こしている筋肉が動かす指に痛みが放散する(TPによる肘、前腕、手の痛み図9参照)。
長母指屈筋:親指に痛みが放散する(TPによる肘、前腕、手の痛み図10参照)。
上腕二頭筋:肩前面から肩甲骨上部、肘部前面に痛みが放散する(TPによる体幹上部と上肢の痛み・2図3参照)。
骨折や骨の変形が神経圧迫の原因と考えられる時はレントゲン検査が、腫瘍(できもの)などが疑われる場合にはMRI検査が必要です。
必要に応じて筋電図検査も行われます。
円回内筋症候群は、手にシビレを起こす頚椎疾患、胸郭出口症候群、手根管症候群、筋肉からの関連痛などとの鑑別が必要ですが、これらの疾患が合併する事もあります。
まずは、骨盤、腰椎、胸椎、頚椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正します。
*正中神経は、頚椎5番から胸椎2番の間から背骨を出ます。
頚椎に異常があると、二次的に絞扼性神経障害(円回内筋症候群や前骨間神経麻痺など)を引き起こし易くなります。
矯正により、背骨と骨盤のバランスが良くなると、頚椎の状態も良くなり、円回内筋症候群や前骨間神経麻痺に関連する神経や筋肉の状態も良くなります。
体全体の経絡の調整によって全体のバランスを整える事も効果的です。
「局所的な治療」
円回内筋症候群では、肘関節や橈尺関節の矯正と円回内筋、上腕二頭筋、浅指屈筋と、これらに関連した筋肉(共同して働く筋肉や拮抗して働く筋肉)の 反応点に鍼治療や徒手による治療を行います。
前骨間神経麻痺では、肘関節や橈尺関節の矯正と、浅指屈筋、深指屈筋長母指屈筋と、これらに関連した筋肉に鍼治療や徒手による治療を行います。
やまだカイロプラクティック院・鍼灸院
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